絵本 狼森と笊森、盗森≠ィいのもりとざるもり、ぬすともり)

絵本 狼森と笊森、盗森(おいのもりとざるもり、ぬすともり)

絵本 狼森と笊森、盗森(おいのもりとざるもり、ぬすともり)の表紙です

絵本 狼森と笊森、盗森(おいのもりとざるもり、ぬすともり)
◆年齢◆
読み聞かせは6才以上(小学生)から。
自分で読む場合も6才以上(小学生)です。

◆ジャンル◆
◆ファンタジー絵本

◆シチュエーション◆
◆みんなでわいわいな絵本



宮沢賢治作 小野かおる画 古今社

初版年月日:平成3年11月 ISBNコード:4907689357

定価1260円(本体1200円+税60円)


通常版はこちら!  定価1260円(本体1200円+税60円)

「えほんおじさんセット」はこちら!  セット価格1460円(税込)

「えほんおじさんセット」って?

季節の日記、えほんおじさんのノートなどがついてくるセットです。

くわしくはこちら!





この本は本格的童話です。

版元の了解をいただいて、全文を下に掲載していますので、お読み下さい。
幼児・年長に読み聞かせをすると、どんな感じになるかを、ここでは記しておきます。
『岩手山麓の小岩井農場の北に四つの森があります。
 狼森・笊森・黒坂森・盗森です。
 この奇体な名前がいつごろ、どうしてついたか知っているのは、もう俺一人だと黒坂森の大磐が威張ってこの話をしてくれました。』
四つの森の由来話なのに、そうはなっていないナンセンスについては、この本の解説「宮沢賢治について」をお読み下さい。
狼森(おいのもり)までのお話には、子どもたちはちょっと緊張して、神妙に聞きます。
どんな集落でも、入植は、最初、このように行われただろうなという様子が描かれています。
その人びとは非常に謙虚ですし、なにか神話的でもあります。
入植を決めるときはこのように森に許可を受けて、はじめたのでしょうね。
その証拠にどんな集落にも氏神様が祭られていますよね。
『「ここへ畑起こしてもいいかあ」
「いいぞお」森が一斉にこたえました。
「家たてていいかあ」
「ようし」森はいっぺんにこたえました。
「ここで火たいてもいいかあ」
「いいぞお」森はいっぺんにこたえました。
「すこし木貰ってもいいかあ」
「ようし」森は一斉にこたえました』
このような入植の儀式のような行いは、子どもたちみも伝わって、何か神聖さを感じさせるのでしょうか。
読み終えるとすぐクラスのなかで、「…いいかあ、いいぞお」が口癖になるようです。
しかし、よく幼児を観察していると、それはきっと、地面なんかに声をかけて話している姿をみることがありますから、幼児にとっては日常的な行為なのでしょう。
しかも人間は長い間、そうやって自然に語りかけたり、呼びかけたりして、自らの倫理を律していたこともわかっています。
それを大人が無くしたのは高々この2,300年間にすぎないのです。
子どもたちはそうした自然に対する怖れや心性を、今でもなくしてはいません。
百姓たちの畠興しと、それによる収穫の喜びを、実際には知らなくても、感じることはできるのです。
神妙さのもう一つの理由は、同じ年頃の子どもたちが、いなくなるというのですから、やはりドキドキするのでしょうか。

九匹の狼と四人の子ども

でも、昔から子どもは神の使いであり、神に近いと考えられてきました。
狼も「大神(おおかみ)」あるはその使いですから、その間の親近性はここによく描かれています。
森は冬の間一生懸命北からの風をふせぎました。
でも百姓たちは何か忘れていました。
おおらかな森も少し機嫌を悪くしたのでしょうか。
ある日小さい子が四人いなくなりました。
森は「たれか童ゃど知らないか」と問われて、「しらない」と答えますが、「くるな」とはいいません、「来お」といいます。
『狼森のまんなかで、
 火はどろどろばちばち
 火はどろどろばちばち、
 栗はころころぱちぱち、
 栗はころころばちぱち』
九匹の狼は夏のまわり灯籠のように、火のまわりを走って、四人の子どもたちに焼いた栗や初茸を食べさせていました。
これはいわば祝宴で、人間との間を仲介する小さな子どもを接待することで、人間との交流を求めていたのでしょう。
だから百姓たちもそれに気づいて、粟餅を狼森にささげます。
「おかえし」は必ず必要ですからね。
読者の子どもたちが納得顔になって神妙さから、ちょっとほっとするのも頷けます。
さて、幼児年長児の一番のお気に入りは、笊森の山男です。
なぜなら、笊をあけると、なくなった農具とともに、 『まんなかには、黄金色の目をした、顔のまっかな山男があぐらをかいて座っていました。
 そしてみんなを見ると、大きな口をあけてバアといいました』
という場面があるからです。

あぐらをかいて座っている大男

それは、多分に挿絵のユーモラスな山男のせいですが、笊森はひょうきんで、親しみやすい森なのでしょうね。
『おらさも粟餅をもって来て呉ろよ』
百姓もその子どもたちも「あっはあっは」と笑いますが、読者である子どもたちも大笑いする場面です。
またある日、今度は粟がぜんぶ盗まれます。
黒坂森は姿を現さない(気位が高い森)で、声だけで教えてくれます。盗森が怪しいと。
そこでみんなは一番北の森へいって「さあ粟返せ」と怒鳴りました。
盗森は「真っ黒で、手足が長い大きな大きな男が、まるでさけるような声」をもっていました。
この場面でも子どもたちのなかには笑う子がいますが、挿絵がちょっと怖くないからでしょうか。
もう少し怖い挿絵でもよかったかもしれません。
結局、盗森の黒男は白状しませんが、ここに岩手山が口を挟みます。
この雄大な岩手山は、四つの森や山麓を統べる存在のようです。
「きっと盗森に返させよう、悪く思わんでくれ」と約束してくれます。

雄大な岩手山

これが広々とした岩手山の心なのでしょう。
挿絵でも見開きに、盗森の向こうに、その雄大な姿をあらわしています。
ある園での読み聞かせでは、読み終えると、みんなで大きな大きな拍手をしてくれました。
子どもたちは、その山容の大きさとこころの大いさを、感じたのに相違ありません。



内容紹介です

全文紹介(出版元・古今社了解の元に掲載します)
小岩井農場の北に、黒い松の森が四つあります。
いちばん南が狼森で、その次が笊森、次は黒坂森、北のはずれは盗森です。
この森がいつごろどうしてできたのか、どうしてこんな奇体な名前がついたのか、それをいちばんはじめから、すっかり知っているものは、おれ一人だと黒坂森のまんなかの巨きな巌が、ある日、威張ってこのおはなしをわたくしに聞かせました。
ずうっと昔、岩手山が、何べんも噴火しました。
その灰でそこらはすっかり埋まりました。
このまっ黒な巨きな巌も、やっぱり山からはね飛ばされて、今のところに落ちて来たのだそうです。
噴火がやっとしずまると、野原や丘には、穂のある草や穂のない草が、南の方からだんだん生えて、とうとうそこらいっぱいになり、それから柏や松も生え出し、しまいに、いまの四つの森ができました。
けれども森にはまだ名前もなく、めいめい勝手に、おれはおれだと思っているだけでした。
するとある年の秋、水のようにつめたいすきとおる風が、柏の枯れ葉をさらさら鳴らし、岩手山の銀の冠には、雲の影がくっきり黒くうつっている日でした。
四人の、けらを着た百姓たちが、山刀や三本鍬や唐鍬や、すべて山と野原の武器を堅くからだにしばりつけて、東の稜ばった燧石の山を越えて、のっしのっしと、この森にかこまれた小さな野原にやって来ました。
よくみるとみんな大きな刀もさしていたのです。
先頭の百姓が、そこらの幻燈のようなけしきを、みんなにあちこち指さして
「どうだ。いいとこだろう。
 畑はすぐ起せるし、森は近いし、きれいな水もながれている。
 それに日あたりもいい。
 どうだ、俺はもう早くから、ここと決めて置いたんだ。」
と云いますと、一人の百姓は、
「しかし地味はどうかな。」
と言いながら、屈んで一本のすすきを引き抜いて、その根から土を掌にふるい落して、しばらく指でこねたり、ちょっと嘗めてみたりしてから云いました。
「うん。地味もひどくよくはないが、またひどく悪くもないな。」
「さあ、それでは いよいよここときめるか。」
も一人が、なつかしそうにあたりを見まわしながら 云いました。
「よし、そう決めよう。」
いままでだまって立っていた、四人目の百姓が云いました。
四人はそこでよろこんで、せなかの荷物をどしんとおろして、それから来た方へ向いて、高く叫びました。
「おおい、おおい。
 ここだぞ。
 早く来お。
 早く来お。」
すると向うのすすきの中から、荷物をたくさんしょって、顔をまっかにしておかみさんたちが三人出て来ました。
見ると、五つ六つより下の子供が九人、わいわい云いながら走ってついて来るのでした。
そこで四人の男たちは、てんでにすきな方へ向いて、声を揃えて叫びました。
「ここへ畑起してもいいかあ。」
「いいぞお。」森が一斉にこたえました。
みんなは又叫びました。
「ここに家建ててもいいかあ。」
「ようし。」森は一ぺんにこたえました。
みんなはまた声をそろえてたずねました。
「ここで火たいてもいいかあ。」
「いいぞお。」森は一ぺんにこたえました。
みんなはまた叫びました。
「すこし木貰ってもいいかあ。」
「ようし。」森は一斉にこたえました。
男たちはよろこんで手をたたき、さっきから顔色を変えて、しんとして居た女やこどもらは、にわかにはしゃぎだして、子供らはうれしまぎれに喧嘩をしたり、女たちはその子をぽかぽか撲ったりしました。
その日、晩方までには、もう萱をかぶせた小さな丸太の小屋が出来ていました。
子供たちは、よろこんでそのまわりを飛んだりはねたりしました。
次の日から、森はその人たちのきちがいのようになって、働らいているのを見ました。
男はみんな鍬をピカリピカリさせて、野原の草を起しました。
女たちは、まだ栗鼠や野鼠に持って行かれない栗の実を集めたり、松を伐って薪をつくったりしました。
そしてまもなく、いちめんの雪が来たのです。
その人たちのために、森は冬のあいだ、一生懸命、北からの風を防いでやりました。
それでも、小さなこどもらは寒がって、赤くはれた小さな手を、自分の咽喉にあてながら、「冷たい、冷たい。」と云ってよく泣きました。
春になって、小屋が二つになりました。
そして蕎麦と稗とが播かれたようでした。
そばには白い花が咲き、稗は黒い穂を出しました。
その年の秋、穀物がとにかくみのり、新らしい畑がふえ、小屋が三つになったとき、みんなはあまり嬉しくて大人までがはね歩きました。
ところが、土の堅く凍った朝でした。
九人のこどもらのなかの、小さな四人が どうしたのか 夜の間に見えなくなっていたのです。
みんなはまるで、気違いのようになって、その辺をあちこちさがしましたが、こどもらの影も見えませんでした。
そこでみんなは、てんでにすきな方へ向いて、一緒に叫びました。
「たれか童ゃど知らないか。」
「しらない。」と森は一斉にこたえました。
「そんだらさがしに行くぞお。」とみんなはまた叫びました。
「来お。」と森は一斉にこたえました。
そこでみんなは色々の農具をもって、まず一番ちかい狼森に行きました。
森へ入りますと、すぐしめったつめたい風と朽葉の匂とが、すっとみんなを襲いました。
みんなはどんどん踏みこんで行きました。
すると森の奥の方で 何かパチパチ音がしました。
急いでそっちへ行って見ますと、すきとおったばら色の火がどんどん燃えていて、狼が九疋、くるくるくる、火のまわりを踊って かけ歩いているのでした。
だんだん近くへ行ってみると居なくなった子供らは四人共、その火に向いて 焼いた栗や初茸などをたべていました。
狼はみんな歌を歌って、夏のまわり燈籠のように、火のまわりを走っていました。
「狼森のまんなかで、
 火はどろどろぱちぱち
 火はどろどろぱちぱち、
 栗はころころぱちぱち、
 栗はころころぱちぱち。」
みんなはそこで、声をそろえて叫びました。
「狼どの狼どの、童しゃど返して呉ろ。」
狼はみんなびっくりして、一ぺんに歌をやめてくちをまげて、みんなの方をふり向きました。
すると火が急に消えて、そこらは にわかに青く しいんとなってしまったので火のそばのこどもらは わあと泣き出しました。
狼は、どうしたらいいか困ったというようにしばらくきょろきょろしていましたが、とうとうみんないちどに 森のもっと奥の方へ逃げて行きました。
そこでみんなは、子供らの手を引いて、森を出ようとしました。すると森の奥の方で狼どもが、
「悪く思わないで呉ろ。 栗だのきのこだの、うんとご馳走したぞ。」
と叫ぶのがきこえました。
みんなはうちに帰ってから粟餅をこしらえて お礼に狼森へ置いて来ました。
春になりました。
そして子供が十一人になりました。
馬が二疋来ました。
畠には、草や腐った木の葉が、馬の肥と一緒に入りましたので、粟や稗はまっさおに延びました。
そして実もよくとれたのです。
秋の末のみんなのよろこびようといったらありませんでした。
ところが、ある霜柱のたった つめたい朝でした。
みんなは、今年も野原を起して、畠をひろげていましたので、その朝も仕事に出ようとして農具をさがしますと、どこの家にも山刀も三本鍬も唐鍬も一つもありませんでした。
みんなは一生懸命そこらをさがしましたが、どうしても見附かりませんでした。
それで仕方なく、めいめいすきな方へ向いて、いっしょにたかく叫びました。
「おらの道具知らないかあ。」
「知らないぞお。」と森は一ぺんにこたえました。
「さがしに行くぞお。」とみんなは叫びました。
「来お。」と森は一斉に答えました。
みんなは、こんどはなんにももたないで、ぞろぞろ森の方へ行きました。
はじめはまず一番近い狼森に行きました。
すると、すぐ狼が九疋出て来て、みんなまじめな顔をして、手をせわしくふって云いました。
「無い、無い、決して無い、無い。 外をさがして無かったら、もう一ぺんおいで。」
みんなは、尤もだと思って、それから西の方の笊森に行きました。
そしてだんだん森の奥へ入って行きますと、一本の古い柏の木の下に、木の枝であんだ大きな笊が伏せてありました。
「こいつはどうもあやしいぞ。
 笊森の笊はもっともだが、中には何があるかわからない。 一つあけて見よう。」
と云いながらそれをあけて見ますと、中には無くなった農具が九つとも、ちゃんとはいっていました。
それどころではなく、まんなかには、黄金色の目をした、顔のまっかな山男が、あぐらをかいて座っていました。
そしてみんなを見ると、大きな口をあけてバアと云いました。
子供らは叫んで逃げ出そうとしましたが、大人はびくともしないで、声をそろえて云いました。
「山男、これからいたずら止めて呉ろよ。くれぐれ頼むぞ、これからいたずら止めで呉ろよ。」
山男は、大へん恐縮したように、頭をかいて立って居りました。
みんなはてんでに、自分の農具を取って、森を出て行こうとしました。
すると森の中で、さっきの山男が、
「おらさも粟餅持って来て呉ろよ。」
と叫んで くるりと向うを向いて、手で頭をかくして、森のもっと奥の方へ走って行きました。
みんなは あっはあっはと笑って、うちへ帰りました。
そして又粟餅をこしらえて、狼森と笊森に持って行って置いて来ました。
次の年の夏になりました。
平らな処はもうみんな畑です。
うちには木小屋がついたり、大きな納屋が出来たりしました。
それから馬も三疋になりました。
その秋のとりいれのみんなの悦びは、とても大へんなものでした。
今年こそは、どんな大きな粟餅をこさえても、大丈夫だとおもったのです。
そこで、やっぱり不思議なことが起りました。
ある霜の一面に置いた朝
納屋のなかの粟が、みんな無くなっていました。
みんなはまるで気が気でなく、一生けん命、その辺をかけまわりましたが、どこにも粟は、一粒もこぼれていませんでした。
みんなはがっかりして、てんでにすきな方へ向いて叫びました。
「おらの粟知らないかあ。」
「知らないぞお。」森は一ぺんにこたえました。
「さがしに行くぞ。」とみんなは叫びました。
「来お。」と森は一斉にこたえました。
みんなは、てんでにすきなえ物を持って、まず手近の狼森に行きました。
狼共は九疋共 もう出て待っていました。
そしてみんなを見て、フッと笑って云いました。
「今日も粟餅だ。
 ここには粟なんか無い、無い、決して無い。
 ほかをさがしてもなかったら またここへおいで。」
みんなはもっともと思って、そこを引きあげて、今度は笊森へ行きました。
すると赤つらの山男は、もう森の入口に出ていて、にやにや笑って云いました。
「あわもちだ。あわもちだ。
 おらはなっても取らないよ。
 粟をさがすなら、もっと北に行って見たらよかべ。」
そこでみんなは、もっともだと思って、こんどは北の黒坂森、すなわちこのはなしを私に聞かせた森の、入口に来て云いました。
「粟を返して呉ろ。粟を返して呉ろ。」
黒坂森は形を出さないで、声だけでこたえました。
「おれはあけ方、まっ黒な大きな足が、
 空を北へとんで行くのを見た。
 もう少し北の方へ行って見ろ。」
そして粟餅のことなどは、一言も云わなかったそうです。
そして全くその通りだったろうと私も思います。
なぜなら、この森が私へこの話をしたあとで、私は財布からありっきりの銅貨を七銭出して、お礼にやったのでしたが、この森は仲々受け取りませんでした、この位気性がさっぱりとしていますから。
さてみんなは黒坂森の云うことが尤もだと思って、もう少し北へ行きました。
それこそは、松のまっ黒な盗森でした。
ですからみんなも、
「名からしてぬすと臭い。」
と云いながら、森へ入って行って、
「さあ粟返せ。粟返せ。」
とどなりました。
すると森の奥から、まっくろな手の長い大きな大きな男が出て来て、まるでさけるような声で云いました。
「何だと。おれをぬすとだと。
 そう云うやつは、みんなたたき潰してやるぞ。
 ぜんたい何の証拠があるんだ。」
「証人がある。証人がある。」とみんなはこたえました。
「誰だ。畜生、そんなこと云うやつは誰だ。」と盗森は咆えました。
「黒坂森だ。」と、みんなも負けずに叫びました。
「あいつの云うことは てんであてにならん。
 ならん。ならん。ならんぞ。畜生。」と盗森はどなりました。
みんなももっともだと思ったり、恐ろしくなったりしてお互に顔を見合せて逃げ出そうとしました。
すると俄に頭の上で、
「いやいや、それはならん。」
というはっきりした厳かな声がしました。
見るとそれは、銀の冠をかぶった岩手山でした。
盗森の黒い男は、頭をかかえて地に倒れました。
岩手山はしずかに云いました。
「ぬすとはたしかに盗森に相違ない。
 おれはあけがた、東の空のひかりと、西の月のあかりとで、たしかにそれを見届けた。
 しかしみんなももう帰ってよかろう。
 粟はきっと返させよう。
 だから悪く思わんで置け。
 一体盗森は、じぶんで粟餅をこさえて見たくてたまらなかったのだ。
 それで粟も盗んで来たのだ。はっはっは。」
そして岩手山は、またすましてそらを向きました。
男はもうその辺に見えませんでした。
みんなはあっけにとられて がやがや家に帰って見ましたら、粟はちゃんと納屋に戻っていました。
そこでみんなは、笑って粟もちをこしらえて、四つの森に持って行きました。
中でもぬすと森には、いちばんたくさん持って行きました。
その代り少し砂がはいっていたそうですが、それはどうも仕方なかったことでしょう。
さてそれから森もすっかりみんなの友だちでした。
そして毎年、冬のはじめには きっと粟餅を貰いました。 しかしその粟餅も、時節がら、ずいぶん小さくなったが、これもどうも仕方がないと、黒坂森のまん中のまっくろな巨きな巌が おしまいに云っていました。







読み聞かせのポイント
この本は地方語や今では難しい言葉がたくさん使われています。
とくにお話のキーワードになっている言葉が幼児には少し難しそうです。
たとえば、「けらを着て」「三本鍬」「唐鍬」「狼(おいの)」「なっても」ですが、これらは本の後に「注」がついていますので、前もって説明しましょう。
他にも「地味(じみ)・山刀(なた)・笊・稗・粟、粟餅」なども少し説明したほうがいいでしょう。
写真など用意してもいいかもしれません。
あまり詳しくは必要ないですが。
また、このお話は岩手山麓の四つ森の話なので、どんなところが舞台なのか説明するために、岩手山と麓の森の写真(*参考写真)を準備します。
そしてもう一つ、火山の噴火の話を最初にします。
火山の噴火のことは、多くの幼児が知ってますが、噴火したらどうなるか、周辺が火山灰に覆われた状態から、草や木が芽吹き、何年もたって森ができることにも少し触れたのち本をとりあげます。
さて、とびらをあけると、火山の噴火によって、岩や石がはねとばされている挿絵とタイトルがありますので、前置きの説明との関連で、このような岩手山の噴火のことを話します。
さらに本とびらがあって、そこにもう一度タイトルと松が芽吹いている挿絵があります。
森ができていく、その始まりが暗示されています。
そして『小岩井農場の北に、黒い松の森が四つあります。いちばん…』と読み始めます。
読み聞かせの方法
家庭では、子どもたちを両脇にして、寝転がっても、座ってでもいいですから、挿絵が見える状態にして読んであげるといいと思います。
集団の読み聞かせでは、絵本を読んであげるのと同じ要領で、挿絵をよく見えるようにして、読んであげましょう。
読み始めたあとは、途中に一切説明をいれずに、通読しましょう。
理由は説明によって、この本のもつ世界が崩れないようにするための配慮です。
準備と説明をあらかじめしておけば、このお話は、年長児の3学期ごろには充分読んであげることができます。
挿絵の重要性について
この本は絵本ではなく、「幼年童話」となっています。
本来「狼森と笊森、盗森」は童話ですが、幼年童話として発行されたことに大きな意義があります。
*注
 【各ページが文章で埋まり、文章が完全に自立していて、挿絵の入った本のことを、私は童話(本格)と呼びます。
  そして「あおい目のこねこ」や「こぐまのくまくん」のように、挿絵を見ていくだけで、とりあえず内容をたどることのできる童話を、「幼年童話」(絵本と童話の中間的な本)と呼ぶことにします】
優れた絵本は、「絵が物語」りますので、登場人物の思いや感情、心情は絵の中にあります。
そのことは、各絵本解説の一冊一冊に書いていますのでそちらを参照していただくとして、童話ではどのようになっているのでしょう。
童話になると、それらは文章で、すべてが表現されるようになります。
たとえば
『…すると、ある年の秋、水のようにつめたいすきとおるような風が、柏の枯れ枝をさらさら鳴らし、岩手山の銀の冠には、雲の陰がくっきり黒くうつっている日でした』
のように、風景や感覚が文章で描かれ、文章から、どんな秋の日だったのか感得できるように表現されます。
絵本ではこの場面は「絵」で表現されるわけですね。
幼児年長ともなると、今までの絵本体験や実際体験から、
『水のように冷たい風、枯れ枝がさらさら鳴る、…雲の陰がくっきり黒くうつる』
様子を、多少のわからない言葉があっても、イメージし、感じることができます。
ところが次の、
『四人の、けらを着た百姓たちが、山刀や三本鍬や唐鍬や、すべて山と野原の武器を硬くからだにしばりつけて…』
を、幼児が、イメージすることは難しいのではないでしょうか。
テレビで見た体験から、武士が鎧を着けている姿を想像するかもしれません。(もちろんこのシーンのイメージには武士が重ねられているわけですが)
ここで重要なのは、闘いに行く武士の真剣さを重ねることによって、百姓が今から畠を開こうとするときの緊張感を伝えたいはずですね。
しかし、そこに文字通り武士をイメージしてしまっては、ちょっと滑稽になってしまいます。
ここは正確なイメージがどうしても必要な場面です。
この本は、このシーンをちゃんと挿絵にして、読者のイメージを支えています。
(ここの場面の岩手山が、すこし幼児にとっては、弱いのではないかと考え、私は前もって岩手山とその手前の森の写真を用意したのですが、小学生に読み聞かせる場合なら、そんな準備もいらないでしょう)
この本は挿絵を見ていくだけで、どんな話なのか想像できますから、幼年童話になっているのです。
つまり、読書は、まずはイメージを思い浮かべなければ、成立しません。
絵本の場合の読書は、「絵」をじっとみたり、繰り返しみればイメージは出来てきます。
むろん、絵本とてもイメージのすべてを絵にしているわけではないですから、絵と絵の間、絵と文章の間、ページとページ間には、読者の働きかけが必要です。
童話の場合、文章からすべてのイメージを、読者が自分で創らなくてはなりません。
幼児年長児はイメージを創る力(大人より優れているかもしれない)はあっても、知っていることからだけでは、限界があります。
また、物語の趣旨からして、イメージの正確さが必要な場合があります。
それを支えてあげられる挿絵が非常におおきな役割を果たすことになるのです。
単に文章が短い、字が大きいだけ、挿絵は文の単なる説明に終わっている幼年童話が多く、その分だけ内容が薄い本がほとんどになりました。
しかし、宮沢賢治のこの本のように、深くて、広い世界を楽しむことができる童話もあるのです。
それを少し難しいからといって、放棄するのではなく、ちょっと支えてあげるだけで壮大な世界を体験させてあげることができるのです。

絵本 狼森と笊森、盗森(おいのもりとざるもり、ぬすともり)
◆年齢◆
読み聞かせは6才以上(小学生)から。
自分で読む場合も6才以上(小学生)です。

◆ジャンル◆
◆ファンタジー絵本

◆シチュエーション◆
◆みんなでわいわいな絵本


宮沢賢治作 小野かおる画 古今社

初版年月日:平成3年11月 ISBNコード:4907689357

定価1260円(本体1200円+税60円)


通常版はこちら!  定価1260円(本体1200円+税60円)

「えほんおじさんセット」はこちら!  セット価格1460円(税込)

「えほんおじさんセット」って?

季節の日記、えほんおじさんのノートなどがついてくるセットです。

くわしくはこちら!



関連絵本はこちら!




◇同じジャンルの絵本はこちら!

絵本 とんがとぴんがのプレゼント のページへ

とんがとぴんがのプレゼント

絵本 あらいぐまとねずみたち のページへ

あらいぐまとねずみたち

絵本 しろいは うさぎ のページへ

しろいは うさぎ

絵本 ケンケンとムンムン のページへ

ケンケンとムンムン



◇同じシチュエーションの絵本はこちら!

絵本 絵本 ぼく、だんごむし のページへ

絵本 ぼく、だんごむし

絵本 絵本 おーい ぽぽんた のページへ

絵本 おーい ぽぽんた

絵本 あいうえおうた のページへ

あいうえおうた

絵本 ぼくのぱん わたしのぱん のページへ

ぼくのぱん わたしのぱん




知っていましたか?日本の絵本の90%はホンモノではないんです。
えほんおじさん アメリカのNASAが教育に取り入れた絵本を知っていますか?
絵本1冊を描くのにかかる年数は?

絵本の読み聞かせ暦30年。
絵本の知識は日本屈指のえほんおじさんだからこそ選べる1冊を あなたにお届けします。
何か質問がありましたら、ご遠慮なくどうぞ!

質問!
FAXでのご注文お支払い方法

◆FAX:086-281-6857
FAXは、これをプリントアウトしてくださいね。


郵便代引、金融機関へ振り込み、クレジットカードの3種類からお選びいただけます。

    メリットデメリット
郵便代引・到着が早い
・銀行に行くなどの手間がかからない
・手数料が250円かかる
・1冊だと、時間指定ができない
金融機関へ入金・手数料が安い・振り込み確認後の発送なので、多少遅くなる(※1)
・金融機関へ行く必要がある(※1)
クレジットカード・手間がかからない・カード会社様に確認後の発送なので、多少遅くなる
※1 ネットで決済の場合、これらのデメリットはなくなる上、手数料も安い場合が多いので、特にお勧め!です。

お客様がEバンク銀行の口座を持っていらっしゃる場合、手数料は無料ですよ!

返品交換配送について
全国一律250円(税込)
配送先一ヶ所につき2,500円以上ご注文いただいた場合、
送料は無料です!
◆万一商品が破損・汚損していた場合商品の配達後10日以内にメール、もしくはFAXにてご連絡ください。この場合の送料は当社で負担いたします。
質問プライバシーの保護
質問! ◆「えほんのくに きび」では、お客様の個人情報であるお名前、ご住所、お電話番号等をいっさい外部にもらすことはございません。プレゼント等に関しても同様ですので、安心して応募してくださいね。

Trackback on "絵本 狼森と笊森、盗森≠ィいのもりとざるもり、ぬすともり)"

このエントリーのトラックバックURL: 

"絵本 狼森と笊森、盗森≠ィいのもりとざるもり、ぬすともり)"へのトラックバックはまだありません。

Comment on "絵本 狼森と笊森、盗森≠ィいのもりとざるもり、ぬすともり)"

"絵本 狼森と笊森、盗森≠ィいのもりとざるもり、ぬすともり)"へのコメントはまだありません。

コメントする

コメントする
(HTMLタグは使用できません)
ブラウザに投稿者情報を登録しますか?(Cookieを使用します。次回書き込み時に便利です。)
  •  
  •  

Copyright 2004-2007 えほんのくに きび 「えほんおじさんのぶろぐ:絵本 狼森と笊森、盗森≠ィいのもりとざるもり、ぬすともり)」ページトップへ。